今朝の新聞から──恩田木工

2012.1.13付け中日新聞朝刊から **************************

 

 

インサイダー取引の疑いで12日、逮捕された経済産業省資源エネルギー庁前次長のK容疑者(53)は、エルピーダメモリ社再建事業で活躍が評価され、出世街道を駆け上がった。中略、・・・「ああいう腕力を持った人材はそういない」(同省事務次官OB)と絶賛されたほどだった。中略、・・・仕事では「常に次の一手を考えている」(経産省幹部)と高い評価を受けていたが、省内からは批判もあった。同省幹部によると、民間企業とざっくばらんに交際し、飲食なども割り勘の原則にこだわっていなかったという。 「よく言えば昔気質。悪く言えばちょっと危ないと思っていた。」 と打ち明ける。中略。・・・

 

 

ほかには公私混同ぶりを指摘する職員の発言を載せています。実力のある人だが、危ない部分も多く見られます。そして今回の、インサーダー取引。 私は、その記事に、ある古典を思い出すのです。『日暮硯(ひぐれすずり)』(岩波文庫)。

 

18世紀信州松代の真田藩の財政を立て直した恩田木工(おんだもく)の事績について書かれた書物です。

重責を任された木工は、まず重臣達から一筆を取ります。次ぎに親類一族を集めて、妻には離縁、子供には勘当、家来には暇を与えると公言しました。訳を聞かれ、身を清く、粗衣粗食の生活には誰も耐えられないからと言う。その結果、全員が誓約をしました。自分自身の体制を整えたあと、次ぎに私腹を肥やした悪徳役人に取りかかります。

殿様に言上する。「悪事を働くものは、働くだけのちからがある者。それらの者はどちらにも付くのだから、役立てる方が良い。だから私に協力させて下さい」と。殿様が「それでよいのか」、「一向に構いません」と木工。殿様の前の大評定に、百姓、商人ともども呼び出された悪役人は打ち首か切腹を覚悟しました。しかし、殿様からじきじきに、今後は木工に協力して奉公に励めと言い渡されます。

木工が取りなしてくれたと感激し、恩義を感じ協力を誓う。

財政再建という大事に向かうとき、態勢を整え、このように大胆な人事が必要であることを、古典は伝えようとしています。

新聞に戻りましょう。さて、事件後彼を使いこなせる官僚・政治家が果たしてどれだけいるでしょうか?